タイムライン防災

 ハリケーンサンディ

ハリケーン・サンディ(Wikipediaによる)ニュージャージー州の事前行動計画(国交省による)
 2005年のハリケーン・カトリーナHurricane Katrinaはカテゴリー5の猛烈なハリケーンで甚大な被害をもたらしました。とくに低平地に住む車を持たない貧困層が大勢犠牲になりました。適切な避難態勢が取られていたら防げたのでは、との反省を迫られたのです(復興に関しては良い意味での教訓もありました)。この災害のAAW(After Action Review)でタイムラインが導入されました。それが実践されたのが2012年のハリケーン・サンディHurricane Sandyです。サンディはカテゴリー3とやや小規模でしたが、それでも死者132名、ニューヨーク証券取引所は2日間閉鎖、経済的損失は8兆円にのぼりました。しかし、直撃されたニュージャージー州では、全半壊約4,000世帯の被害はあったものの、人的被害はゼロでした。州政府が、ハリケーン上陸予想時をゼロ・アワーとして、遡って事前に早めの避難勧告や公共交通機関の運休などの処置をとったからです。ニューヨークの地下鉄も浸水したものの人的被害はありませんでした。この州の措置は、単にタイムテーブルを作っていただけではありません。どの機関や個人がどのような行動を取るのか、具体的に定めていた点が勝れています。日本からは国交省・防災関係学会からなる調査団が送られ、その教訓を学んできました。それがタイムラインという概念です。

 タイムライン

台風災害のタイムライン(国交省)
 国交省によれば、タイムライン(防災行動計画)とは、災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画です。もちろん、台風や水害・雪害さらには遠地地震津波のように、ある程度事前に予測可能な「進行型災害」に適した方法です。しかし、ゼロ・アワーを特定できない地震のような「突発型災害」の場合でも、発災後の対応にはタイムラインは有効です。東日本大震災では「想定外」という言い訳が流行しましたが、このようなことを防ぐためにも、あらゆるレベルでタイムラインを策定しておくことが重要でしょう。
 従来の地域防災計画は、基本方針や理念を列記したもので、お役所が作成しました(トップダウン型)。このタイムライン防災は、策定の際、河川管理者や気象庁などの専門機関、さらには住民も参画すること(多機関連携型、ボトムアップ型)、具体的に誰が何をするかを明文化すること、つまり理念ではなく“行動”計画であることなどが大きな相違点です。
 国交省では、タイムライン導入の効果を下記のように指摘しています。
  1. 災害時、実務担当者は「先を見越した早め早めの行動」ができます。また、意思決定者は「不測の事態の対応に専念」できます。
  2. 「防災関係機関の責任の明確化」、「防災行動の抜け、漏れ、落ちの防止」が図れます。
  3. 防災関係機関間で「顔の見える関係」を構築できます。
  4. 「災害対応のふりかえり(検証)、改善」を容易に行うことができます。
タイムラインの有無による避難勧告発令率(国交省)
 実際、2015年の関東・東北豪雨災害で、氾濫危険情報が発表された市町村のうち、避難勧告等を発令した市町村の割合は、タイムラインを策定していたところが2倍に上っています。
 その後、2017年には水防法も改正され、大規模氾濫減災協議会の創設とタイムラインの策定が挙げられています。それを受け、河川管理者である国交省が音頭を取って、各地の大河川沿いの市町村などでタイムラインの策定が行われ始めました。
 しかし、タイムラインが成功するか否かは、最終的には住民が実際に避難するかどうかにかかっています。本来ライムラインはボトムアップなのですから、地域でコミュニティ・タイムラインを策定し、訓練を続け、PDCAサイクルに従って、より実効性の高いものにブラッシュアップしていくことが肝要です。さらには、各家庭ごとのマイ・タイムラインを作っておきましょう。

 鹿児島県内のタイムライン策定状況

 国はタイムライン策定を呼びかけていますが、まだ、市町村でそれに応えているところは少ないようです。ネットで見つかった県内の策定状況は2018年3月現在、下記の通りです。しかし、時系列に沿った具体的なものはアップロードされていません。

文献

  1. 国土交通省水災害に関する防災・減災対策本部 防災行動計画ワーキング・グループ(2016), タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版). 国土交通省, 34pp.
  2. 水防法一部改正
  3. 中央防災会議幹事会(2017), 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画. 内閣府, 125pp.
  4. 内閣府(防災担当)(2017), 避難勧告等に関するガイドラインの改定(平成28年度). 内閣府, 87pp.
  5. 松尾一郎(2014), これがタイムラインの真のメリットだ!. リスク対策.com, Vol.45, No., p..
  6. 松尾一郎(2016), タイムライン 日本の防災対策が変わる. 廣済堂出版, 151pp.
  7. 松尾一郎(2017), 人の命を守る タイムライン防災[1]~[4]. イッツコム, Vol., No., p..
  8. 山﨑 登(2017), "タイムライン"の大雨対策. NHK時事公論.
  9. 消防防災科学センター(2018), 消防防災の科学 特集タイムライン防災. 消防防災科学センター, No.131.
  10. 河田惠昭(2018), タイムラインの我が国における活用. 消防防災の科学, No.131, p.12-16.
  11. 今坂昭夫・作間 敦(2018), コミュニティタイムライン. 消防防災の科学, No.131, p.33-36.
  12. トム・ウッテン著,保科京子訳(2014), 災害とレジリエンス―ニューオリンズの人々はハリケーン・カトリーナの衝撃をどう乗り越えたのか. 明石書店, 396pp.
  13. マイケル・エリック・ダイソン著,藤永康政訳(2008), カトリーナが洗い流せなかった貧困のアメリカ 格差社会で起きた最悪の災害. スペースシャワーネットワーク, 380pp.
  14. 肝属川水防災意識社会再構築協議会・鹿屋市・肝付町・東串良町・鹿児島県・鹿児島地方気象台・国土交通省大隅河川国道事務所(2016), 『いつかくる大規模出水に備えた水害に負けない強い大隅地域づくりの推進』(案). スライド, 48枚.
  15. (), . , Vol., No., p..
  16. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2018/02/26
更新日:2018/03/07